これまでのキャリアの棚卸し

目次

Introduction

転職活動で転職先を見つけるためには、どの様な企業が転職先として自分に適切であるかを明確にしなければなりません。このためには、これまでのキャリアをしっかり棚卸ししておく事が大切です。ただやったタスクやプロジェクトの内容を書き出すだけではなく、その時感じたことまで含めて振り返ることで、スキル面と志向性の両方で自分にマッチする企業タイプを導き出す事ができます。

また、キャリアの棚卸しの結果は転職目的をより明確化させたり、自己分析・業界分析・企業研究に活かせたり、職務経歴書の作成に活用できたりと、応用の幅が広い重要な作業でもあります。

そこで本記事では、キャリアの棚卸しの方法とその応用について説明していきます。

まず初めに、次のセクションでなぜキャリアの棚卸しが重要なのかもう少し詳しく説明したいと思います。

キャリアの棚卸しで、普段は漠然とした自分のキャリアの全体像を明確化させることの重要性

私たちは普段の業務タスクやプロジェクトに忙殺され、自分がどれだけの成果を出してきたのか、どのようなスキルを磨いてきたのかを正確かつ具体的にフィードバックしていない事が多いのではないでしょうか。

みなさんにはこれまでのITエンジニアとしてのキャリアの蓄積がある程度あるはずです。評価のタイミングなど短期的なスパンでのフィードバックは上司から得られるかもしれませんが、中長期的な、時には複数社にまたがる、一貫したキャリアの流れの中でどの様な経験を積み上げ、それからどの様なスキルを身につけてきたのかは、むしろ多くの経験があるために曖昧になってしまっているかもしれません。

しかし、転職市場で競争力を発揮するためにはこれまでの経験を具体的に整理し、自分の強みや達成した成果を転職エージェントや採用担当者に明確かつ具体的に伝えることが不可欠です。

そのために、キャリアの棚卸しをしっかり実施する必要があります。

このプロセスは、自己のキャリアに対する深い洞察を得るためのものであり、自分がどのような仕事に情熱を感じ、どの業務で顕著な成果を上げたかを理解することから始まります。また、これまでの職務経験を振り返ることで、特定のプロジェクトやタスクで発揮した技術的能力だけでなく、チーム内での役割、リーダーシップの経験、コミュニケーションスキルなど、対人スキルの側面も評価することができます。

具体的には、プロジェクトごとに、その目標、自分の担当したタスク、使用した技術、チームメンバーとの協力の仕方、達成した成果、そして遭遇した課題とその解決策を詳細に書き出します。この作業を通じて、成功したプロジェクトとそうでなかったプロジェクトの違いを分析し、自分の強みと改善が必要な領域を特定することができます。

さらにこの棚卸しの結果は、転職エージェントや将来の雇用主に対して自分のキャリアの物語を説得力をもって伝えるための基盤を提供します。どのような挑戦に直面し、それをどのように乗り越えたか、どのような成果を達成したかを具体的に語ることができるようになることは、転職活動において非常に価値のあるスキルです。自分自身のキャリアを振り返り、整理することで、未来の雇用主が求めるスキルや経験を持っていることを効果的にアピールすることができるようになります。

キャリアの棚卸しは、自分自身のキャリアを深く理解し、自分が何を望み、どのような環境で最も効果的に働けるかを把握するための重要なステップです。この自己分析を通じて、自分のキャリアの方向性をより鮮明にし、転職市場での競争力を高めることができるのです。

以降のセクションで実際にキャリア棚卸しリストの作成とその分析方法を説明していきます。まず次のセクションでは自分がこれまでにやってきたことを書き出しリストかする方法を説明します。

自分のやってきたことを全て書き出しリスト化する

自分のキャリアを振り返り、これまでのプロジェクトやタスクを徹底的にリスト化する作業は、自己の成長と将来のキャリア形成において非常に価値があります。このプロセスを通じて、自分が関わってきた仕事をプロジェクトやタスク単位で細かく分け、それぞれにおける自分の役割、具体的に取り組んだ内容、獲得したスキルセット、達成した成果、プロジェクトにおける期間、そして協働したチームメンバーの構成まで、詳細に記録することが求められます。

キャリアの棚卸しをリスト化しておくことで、職務経歴書の作成をスムーズにします。本記事後半のセクション 転職理由をブラッシュアップする で言及するように、転職理由をより明確化することにも応用する事ができます。

まず、プロジェクトやタスクを振り返り、キャリアの棚卸しリストとしてそれぞれについて以下の点を書き出します。

キャリアの棚卸しリストの項目例

  1. 期間
  2. 名称
  3. 目的
  4. 成果
  5. 自分が直接取り組んだタスクや責任領域(担当フェーズ)
  6. 使用した開発環境、技術、ツール
  7. チーム構成(メンバーの数、役割分担、コラボレーションの仕方)
  8. 自分の役割(たとえば、リードデベロッパー、プロジェクトマネージャー、チームメンバーなど)
  9. 学びとなったスキルや知識(スキル・知識要因)
    1. 開発業務に直接関わるハード面
    2. コミニュケーションやビジネス知識などのソフト面
  10. プロジェクトに対する主観的評価(感情要因)
    1. ポジティブ面
    2. ネガティブ面

このリストの1から8までは職務経歴書にも記載できる標準的な内容です。9と10が該当のプロジェクトやタスクの主観的な評価になっているのがこのリストの特徴です。各プロジェクトやタスクに対して項目1から8を振り返り、当時の自分の気持ちも思い出して9と10を記入していきます。

作成したリストはそのままにしておくのではなく、しっかり分析することで自分のキャリアに対する志向性をよりはっきりと把握する事ができます。そこで次のセクションでは、作成したリストをもとに、プロジェクトやタスクが上手くいった理由、上手くいかなかった理由を整理する方法を説明します。

プロジェクトやタスクが上手くいった・上手くいかなかった理由を考察する

書き出したプロジェクトやタスク全体に対してリスト項目9と10を考察することで、成果が出た・出なかったプロジェクトやタスクではどのようなスキル・知識要因と感情要因が影響していたか検討することができます。スキル・知識面要因の理解は自分の強みにつながります。感情要因の理解は自分の職業志向性を浮かび上がらせます。これら二つの点は自分と転職先候補の職務要件やカルチャーマッチを検討する上で重要な情報になります。この点については後続のセクションで説明します。

上手くいったプロジェクトの分析

スキル・知識要因: 成功したプロジェクトについては、その成功の背後にある複数の要因を詳細に調査します。スキル面では、特定の技術や方法論がプロジェクトの成果にどのように貢献したかを分析します。たとえば、あるプログラミング言語に対する深い理解や、新しいフレームワークの迅速な習得、効率的なコードの記述がプロジェクトを加速させたかもしれません。また、チーム管理やコミュニケーション能力といったソフトスキルが、チームの士気を高め、目標達成に貢献した例も挙げられます。

感情要因: ポジティブなチームの雰囲気やオープンなコミュニケーション、共有されたビジョンが、メンバーのモチベーションを高め、成功につながったかを分析します。また、柔軟な働き方を支援するカルチャーや、創造性を促進する職場環境が、イノベーションを生み出し、プロジェクトの成功を後押しした事例もあるでしょう。

上手くいかなかったプロジェクトの分析

スキル・知識要因: 一方、期待通りの結果を得られなかったプロジェクトでは、スキル面の不足が原因であった場合、具体的にどの技術や能力が欠けていたかを特定します。例えば、新しい技術スタックに対する不慣れさや、プロジェクト管理の経験不足が障害となった可能性が考えられます。また、時間管理や優先順位付けの問題がプロジェクトの遅延を引き起こした例も振り返ります。

感情要因: では、チーム内の人間関係の問題やコミュニケーションの不足がプロジェクトの進行に影響を与えた場合、その具体的な状況を分析します。事業方針の変更やカルチャーのミスマッチがチームの一体感を損ない、プロジェクトの目標達成を妨げた例も重要な学びとなります。

このように、各プロジェクトやタスクの成功や失敗をスキル面、感情面、環境面から総合的に分析することで、自分がどのような環境下で最も効果的に働けるか、またどのようなスキルや能力を強化すべきかを具体的に理解することができます。この分析を通じて得られた知見は、自分自身のキャリアの方向性を考える上で非常に有用であり、次の転職活動での成功に直結する重要な洞察となります。

次に考えることはキャリアの棚卸しリストの分析を通じて洗い出された自分の特性を無理なく活かすことができる企業の特性を検討することです。次のセクションでは、どのような企業が自分に合いそうなのか・避けるべきなのかを考察する方法を説明します。

どのような企業が自分に合いそうなのか・避けるべきなのか考える

プロジェクトやタスクの成功・失敗に関する洞察を基に、自分のスキルセット、経験、そしてカルチャーに対する好みから、将来的に目指すべき企業の特徴や、避けるべき企業の特性をより詳細に考えてみることが重要です。このアプローチにより、自分自身がどのような組織文化、経営方針、チーム環境の中で最大のパフォーマンスを発揮できるか、そしてどのような状況が自分の成長を妨げる可能性があるかを明確に理解できます。

マッチする企業像の特定

スキルや経験に基づく企業選定: 自分がこれまでに培ってきた技術的スキルや業界知識が活かせる企業を優先して考えます。たとえば、特定のプログラミング言語やフレームワークでの豊富な経験を持つ場合、その技術を核としている開発プロジェクトが多い企業が適合する可能性が高いです。また、過去の成功経験が、新たなプロジェクトやチャレンジに直結する業界や企業を選ぶことも重要です。

カルチャー志向性に基づく企業選定: 自分が活躍できたプロジェクトの環境を分析し、そのような環境を提供している企業を探します。例えば、オープンなコミュニケーションやフラットな組織構造を好む場合、スタートアップや中小企業が合う可能性があります。また、自主性や創造性を重視する文化を持つ企業も、自分の能力を最大限に発揮できる場所となるでしょう。

避けるべき企業像の特定

スキルや経験とのミスマッチ: 自分が持っていないスキルを中心に据えている企業や、全く異なる業界の企業は、短期間での適応が困難と考えられます。また、過去に挑戦したが成果を出せなかった技術領域や業務分野に強く依存している企業も避けるべきです。

カルチャーの不一致: 自分が過去に不満を感じた、またはストレスを感じた職場環境や企業文化を持つ企業は避けます。例えば、過度な競争を奨励するカルチャーや、過剰なヒエラルキーが存在する組織では、自分が価値を感じる仕事をすることが難しいかもしれません。また、フィードバックや個人の成長に対する支援が不足している企業も、自己実現やキャリア成長を目指す人にとっては適さないでしょう。

このように、リストと成功・失敗の分析から導き出される具体的なスキル、経験、カルチャー志向性をもとに、自分に合いそうな企業と避けるべき企業の像を明確にすることで、転職活動をより戦略的に進めることができます。また、このプロセスを通じて、自分自身のキャリアにおける真の価値と、将来の方向性について深く理解することができるでしょう。

キャリアの棚卸しリストを利用したここまでの考察過程で、自分を無理なく活かせる職場環境がかなり明確化されるはずです。この結果を転職理由に反映する事でより説得力を持った転職理由に磨き上げる事ができます。次のセクションではこのことについて説明していきます。

転職理由の明確化にまだ取り組んだ事がない方は下記の記事を参考にして転職理由を一度整理してみてください。

転職理由をブラッシュアップする

キャリアの棚卸しリストとそれから検討したスキル・知識要因と感情要因を活用して、既に作った転職理由をより掘り下げていくことができます。またキャリアの棚卸しデータからボトムアップ的に転職理由を作成することもできます。

転職理由の具体化

キャリアの棚卸しリストから検討したプロジェクトやタスク全体の感情要因を参考にポジティブ面(充実感を得られた点)とネガティブ面(不満点)をまとめます。ここで抽出したポジティブ面とネガティブ面を 転職理由を明確化させるで紹介した手順でリスト化し分析することで具体的な転職理由をボトムアップに作ることができます。

もし既に転職理由を書き出していても、ここでの手順を経ることで見落としている理由が出てくるかもしれません。なぜなら、転職理由を明確化させる ではとりあえず思いつく不満点を列挙していますが、ここでの方法は具体的な過去の履歴に基づいているためより具体的な考察が可能となっているためにです。

転職理由の洗練

一度書いた転職理由を洗練するために次の視点で考察していきます。

キャリア目標の明確化: キャリア目標を達成するために現時点で必要とされるスキルセットや経験を具体的に述べます。このためにはリスト項目の"使用した開発環境、技術、ツール"や"学びとなったスキルや知識(スキル・知識要因)"を活用することができます。これにより、なぜ特定の企業やポジションが自分のキャリア目標に合致するのかを説明できます。

専門性の追求: 自分の専門知識やスキルをさらに深め、拡張したいという願望を具体的な例を挙げて説明します。ここでもリスト項目"使用した開発環境、技術、ツール"や"学びとなったスキルや知識(スキル・知識要因)"に加え"プロジェクトに対する主観的評価(感情要因)"も活用します。実績と結びつけつつどのような技術やプロジェクトに関わりたいのか、そしてそれがどのように自分の専門性を高めることにつながるのかを明確にします。

職場環境と文化への期待: 自分が最も生産的かつ満足度が高いと感じる職場環境の特徴を挙げ、なぜそれが重要なのかを説明します。同時に、過去の経験から避けたい職場の特性も指摘し、自分にとって理想的な職場文化の要素を強調します。これにはリスト項目の"プロジェクトに対する主観的評価(感情要因)"が活用されます。

キャリアの棚卸しの結果は自己分析、企業研究、業界研究にも活用する事ができます。次のセクションではそのことについて説明します。詳細な自己分析、企業研究、業界研究の方法を知りたい方は次のセクションのそれぞれ該当のリンク先を参照してください。

自己分析、企業研究、業界研究に活用する

キャリアの棚卸しリストから得られた知見を活用して自己分析、企業研究、業界研究を深めることもできます。これにより、自分自身のキャリア目標、能力、価値観がより明確になり、それにマッチする企業や業界を見極めることができます。具体的な転職先の選定だけでなく長期的なキャリアプランニングにも役立ちます。

自己分析の深化

自己分析では、成功したプロジェクトやタスク、苦戦した経験を詳細に振り返り、自分の強み、弱み、改善点、そして情熱を持てる仕事内容を明確にします。これには、技術的能力だけでなく、コミュニケーションスキル、チームワーク、リーダーシップ能力などのソフトスキルも含まれます。例えば、特定の技術スタックに対する深い理解を持つ、プロジェクト管理における経験豊富な実績、またはクリエイティブな問題解決能力など、自己の核となるスキルセットとキャリア目標を細かく分析します。

このような自己分析において、リストの項目9や10が役立ちます。項目9はスキル面から項目10は感情面から職務に対する自分を見つめた結果となっています。

自己分析についてより詳しくは次の記事で紹介しています。

業界研究の深掘り

自分が活躍できる業界、または新たに挑戦したい業界を特定します。業界の現状分析、将来のトレンド、業界内の主要企業とその戦略、業界が直面する課題などを研究します。この過程で、自分のスキルや経験が特に需要の高い業界、成長機会が豊富なセクター、または自分の情熱に合致する分野を特定します。例えば、テクノロジー業界の急速な変化に興味がある、持続可能な開発に貢献したい、健康技術で社会的な問題解決に取り組みたいなど、業界選択を通じて自己のキャリアビジョンを実現できる場を見つけます。

上記の内容の業界研究には、リストの1から9までの項目から経験やスキル・知識面から業界との親和性をみることができ、項目10の分析から自分の興味関心・志向性を導き出しそれが業界の性質とマッチしそうか判断することができます。

業界研究についてより詳しくは次の記事で紹介しています。

企業研究の具体化

キャリア棚卸しで得られたリストを、特定の企業が自分のキャリア目標や働き方に合致するかどうかの判断にも役立てることができます。企業の文化、使命、ビジョン、成長戦略、従業員のレビュー、提供されているキャリアパスなどを研究します。リストの項目9や10を活用し、過去の成功体験や失敗から学んだレッスンを活かせる環境がその企業にあるかどうかを考慮します。例えば、革新的な技術に取り組む意欲が高い企業、柔軟な働き方を支持する文化、または継続的な学習と個人の成長を奨励する環境など、自己の価値観やキャリア目標と合致する企業を選びます。

企業研究についてより詳しくは次の記事て紹介しています。

このように、経験の棚卸しを基にした自己分析、企業研究、業界研究を通じて、自分に最適な職場環境、業界、職種を明確にし、転職の成功確率を高めることができます。また、このプロセスは自己のキャリアに対する深い理解を促し、より意識的かつ戦略的なキャリア決定を可能にします。

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転職理由をブラッシュアップする のセクションでも説明したように、キャリアの棚卸しと並行して転職理由の明確化も必須です。それを説明したのが次の記事です。


自己分析、企業研究、業界研究に活用する のセクションで説明したように、キャリアの棚卸しも転職理由の明確化も終わっている方は自己分析、業界研究、企業研究を実施しましょう。それを説明したのが次の記事です。


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