転職先はただ給与が上がれば良いというものではありません。組織カルチャーにも適合し無理なく働けることも同等に大切です。なぜなら、自分の志向性にマッチしない企業ではストレスが負担になり、十分な成果を出せず評価が下がってしまったり、短期間で退職することもにもなりかねません。
この様な事態を避けるためにも、自己分析は必須になります。
本記事では主に、自分の職務経験からボトムアップ的に自己分析する方法と、キャリアアンカーの様なキャリア心理学を活用した自己分せの方法を紹介します。
まず初めに次のセクションで 曖昧な自己分析では自分に適切な企業への転職が難しくなってしまうことを説明します。
自己分析が不明確な状態での転職活動は、社風や職場環境とのミスマッチによるリスクを高め、結果的に転職の失敗につながる可能性があります。
自分自身の働き方、価値観、キャリアにおける長期的な目標を理解することなく、単に給与面だけで転職先を選択することは表面的な成功をもたらすかもしれませんが、長期的なキャリア満足度や職場での幸福感を得ることは難しいでしょう。職場とのミスマッチが最悪の場合、転職後すぐに退職してしまうことにもなりかねません。再度の転職活動では、転職直後の退職が履歴書にあることを面接で厳しく追求される可能性が高かく、転職活動をそれまで以上に困難なものにしてしまう恐れもあります。
これらの様なリスクを避け自分に合った転職先企業を見つけ出すためにも、詳細な自己分析を通じて自分の強み、弱み、価値観、働き方の好み、キャリアアップに対する期待などを深く理解することが重要です。
特に更なるキャリアの高みを目指したり、交際・結婚・出産などのライフイベントが発生しやすい時期でもあり、キャリアにマイナスになることはできるだけ避けたいものです。
従って、自己分析のプロセスを丁寧に行い、自分の内面を深く掘り下げることは、転職成功の鍵となります。このプロセスを通じて、自分自身のキャリアの方向性を明確にし、自分に合った企業文化を持つ企業を見つけるための確固たる基盤を築くことができます。最終的には、このような自己分析を基にした転職活動が、長期的なキャリアの満足度を高め、職場での幸福感を実現するための最良の道となります。
以降のセクションかでは実際に自己分析方法を説明していきます。まず次のセクションではキャリアの棚卸し結果を利用した自己分析の方法を紹介します。
(このセクションは これまでのキャリアの棚卸し の内容を前提としています。まだの方はこちらの記事を先に読むことをおすすめします。)
キャリアの棚卸しリストでは、個別プロジェクトやタスクに対する主観的評価(感情要因)をポジティブ面とネガティブ面に分けて書き出しました。それらを「上手くいった経験」と「上手くいかなかった経験」の二つの大きなカテゴリーに分類します。つまり次のような分類項目ができます:
上記のカテゴリー分けの解釈例を考えてみます。上手くいった項目のポジティブ面や上手くいかなかった経験のネガティブ面は、それぞれの感情要因がプロジェクトやタスクの成功や失敗の大きな要因になっていると判断できます。それに比べて上手くいった経験のネガティブ面と上手くいかなかった経験のポジティブ面はそれぞれの成功・失敗への影響が相対的に少なかったと解釈しても良いでしょう。もう少し特殊な状況として、上手くいった経験と上手くいかなかった経験の両方に共通のポジティブ面またはネガティブ面の記載があるケースが考えられます。この場合は、例えば共通のポジティブ面が記載されていたとして、上手くいかなかった経験でもポジティブに感じる要素があるということなので、それが上手くいった経験にも記載があることを考慮すると、そのポジティブな要素はポロジェクトやタスクの成否にかかわらず非常に強い自分の特性を表していると考えることができます。
これまで経験してきた複数のプロジェクトやタスクの感情要因を上記の二つのカテゴリー分類で具体的にまとめることで、どのような職場環境に身を置くと自分が活躍しやすいのか、またはストレスを感じやすいのかを実際の経験データからボトムアップで自己分析することができます。
上手くいった経験のグループでは、どのような勤務環境やプロジェクトの性質が自分のモチベーションを高め、積極性や集中力を最大限に引き出したのかを特定します。たとえば、チーム内でのオープンなコミュニケーションがあったプロジェクト、自由度の高い創造的なタスク、明確な目標設定と達成感があったプロジェクトなど、成功体験の背後にある共通点を見つけ出します。
一方で、上手くいかなかった経験のグループについては、どのような状況がストレスを引き起こし、モチベーションの低下や集中力の散漫をもたらしたのかを検証します。例えば、不明確な役割分担、コミュニケーションの不足、非現実的な期限設定、価値観の不一致など、ストレスを感じた原因を具体的に特定します。
この二つのグループで洗い出した自分の特性要素を考察・要約することで、自分自身がどのような条件下で最高のパフォーマンスを発揮し、逆にどのような状況が自分の能力を制限してしまうのかを理解できるようになります。例えば、自分がチームワークを重視するタイプなのか、独立して作業を進めることを好むのか、また、創造性を要求される環境で輝くのか、それともルーティンワークの中で安定した成果を出すのか、といった自己理解が深まります。
これまでに述べてきた上手くいった・上手くいかなかった経験の分類についてはこれまでのキャリアの棚卸しの プロジェクトやタスクが上手くいった・上手くいかなかった理由を考察する のセクションでも紹介しています。
ここで紹介した方法は自分の経験データに基づくボトムアップ型の自己分析でした。自己分析は一つの方法ではなく多角的に捉える方が自己認識をより詳細に行えます。別の角度からの自己分析方法として次のセクションではキャリア心理学などを利用した自己分析方法を紹介します。
自己分析方法2であるキャリアアンカーをはじめとするキャリア系の自己分析診断ツールの利用は、個人のキャリア開発と自己理解を深める上で非常に有効な手段です。
キャリアアンカーはエドガー・H・シャインによって提唱され、個人がキャリアの選択と発展において最も重視する価値観や能力、ニーズを特定することを目的としています。このツールは、ある程度の社会人経験を積んだ人を対象に、自分のキャリアに対する深層の動機や変わることのない基本的な姿勢を明らかにし、それがキャリアの決定や変化にどう影響しているかを理解するのに役立ちます。社会人経験が若い人はまだキャリアアンカーが定まってないとされ、さまざまな経験を積むに従ってキャリアアンカーが構成されるとされています。
厚生労働省が提供するjobtagや、多くの転職サイトが提供している診断ツールも、個々の職業価値観や適性、働く上での優先順位などを探るために設計されています。これらのツールは、ユーザーが自身のキャリアパスを考える際に、より具体的で個別化されたフィードバックを提供することを目的としています。例えば、jobtagでは、自分の興味や価値観がどのような職種にマッチするかのヒントを得ることができ、転職サイトの診断ツールを使用すれば、現在の職業適合性や将来のキャリア方向性についての洞察を深めることが可能です。
これらの自己分析ツールの中には、学術研究に基づいた質問項目を含んでいるものもあり、個人のキャリア志向性や適性、職業的価値観を科学的な視点から評価することができます。このようなツールを利用することで、自己のキャリアに関する深い理解を得るとともに、将来のキャリアプランニングにおいて重要な決定を下す際の根拠となる情報を収集することができます。
さらに、これらの診断ツールを利用することで、自分自身のキャリアに対する視野を広げることができます。たとえば、自分が重視している価値観や能力が特定の業界や職種に特に適していることを発見するかもしれません。また、今まで考えたこともなかったキャリアの可能性に気づくことができることもあります。この過程で、自分のキャリアに対する新たな理解を深め、より充実した職業生活を送るための道を見つけることができるのです。
キャリアアンカーやその他のキャリア診断ツールを活用することは、自分自身のキャリア発展において非常に重要なステップです。これらのツールを通じて得られる洞察は、自分自身の価値観、能力、そしてキャリアに対する望みをより明確にし、自分に合ったキャリアパスを見つけるための重要な手掛かりとなります。
次のセクションでは自己分析方法1と方法2を合わせて自己分析をより洗練させる方法を説明します。
自己分析方法1と方法2を組み合わせるプロセスは、自己理解の深化とキャリアプランニングの精度向上に非常に効果的です。
方法1では、自分の直接的な経験から得られるデータに基づいて、成功体験と挑戦体験を分析し、自分の強み、弱み、好み、不快感を感じる環境などを特定します。これにより、自分がどのような条件下で最も効果的に働けるのか、またはストレスを感じやすいのかについての直感的な理解を得ることができます。
一方、方法2では、キャリアアンカー、jobtag、転職サイトの診断ツールなど、外部の視点からの自己分析を行います。これらのツールは、自分のキャリア価値観、適性、職業的興味などを客観的かつ科学的な視点から評価し、自分自身についての新たな発見を促します。特に、学術研究に基づく診断ツールを使用することで、自分のキャリアに関する深い洞察や、意識していなかった潜在的な興味や能力に気づくことがあります。
これら二つの方法を組み合わせることで、自分の直接的な経験に基づく内省的な分析と、客観的なデータや理論に基づく外部的な分析のバランスを取ることができます。
例えば、自分が特定の職務やプロジェクトで成功した経験があると自己評価する場合、その成功体験が自分のキャリアアンカーや職業価値観とどのように関連しているのかを理解することができます。また、自分が挑戦だと感じる経験から学んだ教訓を、外部の診断ツールで明らかになったキャリアの優先順位や価値観と照らし合わせることで、その挑戦が自分のキャリア発展においてどのような意味を持つのかを深く理解することができます。
さらに、方法2で得た外部からの視点に基づいて方法1の結果を再評価することで、自分の経験や直感に偏らない、よりバランスの取れた自己理解を実現することができます。例えば、ある特定の職業価値観が非常に高く評価された場合、その価値観が過去の成功体験や挑戦体験にどのように影響していたのかを再検討することができます。このように、自己分析の結果を相互に参照し合うことで、自分のキャリアに関するより深い洞察と、自分にとって理想的な職場環境やキャリアパスを明確にすることが可能になります。
方法1と方法2を組み合わせることにより、自己分析の精度を大きく向上させることができ、自分自身のキャリアについてのより包括的で詳細な理解を得ることができます。これにより、自分にとって最適な職場環境を選択し、キャリアの方向性をより明確に定めるための有効な基盤を築くことができるのです。
これまで説明してきた自己分析方法とキャリアの棚卸しで得られた結果を利用することで、個人のスキルセット、職務経験、キャリア価値観、自分に合う職場環境を明らかにする事ができます。それに基づいて自分にマッチする企業群を特定し、その中から理想の転職先を選び出すことが可能になります。
ここでは自分のキャリア経験と自己分析によって得られた志向性に基づき、転職情報サイトで企業探しをする具体例を紹介します。
特定の業界での転職を希望している場合は本セクションの方法に業界研究 で紹介している内容も合わせて転職先を探してみてください。
まず、キャリアの棚卸し の結果から職務経験から得られたスキル、自分にマッチする企業像を整理します。これらの情報を転職情報サイトの検索キーワードやフィルター条件に入力し企業を検索していきます。条件の絞り込みが厳しすぎる場合は優先度の低い条件を外していきます。このプロセスを繰り返し、自分が個別に調べられる量の企業数に絞り込みます。
次に、ある程度絞り込んだ企業群の各企業に対して、その企業のビジョン、ミッション、文化、製品やサービス、市場での立ち位置などをコーポレートサイと、採用サイト、有価証券報告書、転職情報サイト、クチコミなどから調査します(具体的な企業研究の方法は 企業研究 で紹介しています)。
調べた結果と自己分析1+2によって得られた結果を比較します。自己分析によって明らかにした希望の職場像と企業研究で調べた企業の性質がどのくらい合致するかみていきます。自分に合わない印象が強い企業を転職希望先企業のグループから外していきます。
以上の調査を実施した状態で転職エージェントと面談をすると、自分のキャリア目標、働き方の好み、求める企業文化、自分なりに選別した転職先企業などを具体的に伝えることができることで、転職エージェントはより求職者に適切な企業を紹介しやすくなります。
次のセクションでは自己分析を転職理由に反映する方法を説明します。
もし自己分析前に自分なりに転職理由を整理していたとしたら(例えば 転職理由を明確化させる のような方法で)、自己分析結果を転職理由に反映することでより説得力のある転職理由へ改善することができます。
このアプローチでは、自分自身の内省と分析を通じて得られた深い洞察を基にして、なぜ転職を考えているのか、そして新たな職場から何を期待しているのかを具体的かつ明確に表現します。この過程では、自己分析を通じて明らかになった自分の強み、弱み、価値観、キャリアにおける長期的な目標などを踏まえ、転職理由を細かくブラッシュアップします。
たとえば、自己分析によってリーダーシップ能力やチーム内での協働を促進する能力が自分の強みであることが明らかになった場合、これらの強みを生かせるようなチーム指導やプロジェクト管理のポジションを求めていることを転職理由として挙げることができます。一方で、自己分析から、現在の職場環境が自分の価値観やキャリア目標と合致していないことが明らかになった場合、新たな環境でこれらの価値観をより実現できる機会を求めていることを転職の動機として提示することができます。
また、自己分析を通じて特定のスキルセットや専門知識の強化が必要であると認識した場合、そのスキルや知識を深め、キャリアをさらに発展させるための機会を求めていることを転職理由として明確にすることも可能です。このように、自己分析の結果を踏まえて転職理由を慎重に構築することで、面接官に対して自分のキャリア目標と転職活動における真剣な意図を効果的に伝えることができます。
さらに、自己分析を通じて得られた洞察は、転職活動中に遭遇する可能性のある様々な質問に対して、一貫性のある答えを提供する基盤となります。自分自身のキャリアにおける価値観や目標、強みや改善すべき点を明確に理解していることは、転職市場において自分自身を効果的に売り込むための重要な要素です。
結局のところ、自己分析結果を転職理由に反映させることは、転職活動を成功に導くための戦略的なステップです。このプロセスを通じて、転職候補者は自分自身のキャリアに対する深い理解をもとに、将来の職場で実現したい目標や期待を具体的に表現することができるようになります。
本記事では自己分析方法を説明しました。自分のことを理解したら、次は転職先企業をしっかり理解しなければなりません。
業界に拘らず自分の経験とスキルを中心に転職先を探すケースでは、企業が膨大にあるため、まず業界研究から進め、ある程度興味のある業界を絞ってから企業研究することをお勧めします。同業界や類似業界の企業を転職先として考えていてその動向をある程度把握している方は業界研究を省略して企業研究へ進むこともできます。
上記の項目が既に済んでいる方は職務経歴書や履歴書の準備を進めましょう。それらを説明したのが次の記事です。
上記2点も概ね準備が済んでいる方は、転職エージェントのサポートを得て転職活動を開始するために転職支援サイトの登録作業へと移りましょう。このプロセスでも留意すべき点があるため下記の記事でそれを説明しました。
本サイトの記事を読んだり、またはご自身でこれまでに既に転職準備していたなどで転職エージェントに会う準備が整っている方は、転職エージェントに会うために転職支援サイトの登録を進めましょう。
次の記事では、ITエンジニがどのようなサービスに登録すべきかを解説しています。